データ分析を活かしDXを成功させる3つの手法
デジタル・トランスフォーメーション(DX)の実現のため、データを活用した顧客体験や、ビジネスプロセスの最適化が、多くの企業にとって経営課題となっています。
従来使われていなかった音声や、テキスト、画像などの非構造化データを活用することにより、これまでにないビジネスモデルを生み出すことも可能になりました。
今回はデジタル・トランスフォーメーション(DX)を成功させるデータ分析の方法について解説していきます。
DXという言葉を頻繁に見かけるようになりましたが、意味をしっかり答えることはできますか?
ITと同義語のイメージを持っている方も多いようですが、DXとITは同義語ではありません。「DXとはなにか?」「なぜDXが推進されているの?」という疑問に答えるべく、DXの定義を紹介していきます。また、DXには、”データ分析”が必要となっています。
”データ分析”という言葉自体は、以前から使用されている言葉ですが、改めて紹介していきます。
DXとは?
経済産業省が発表した、「DX推進ガイドライン Ver.1.0(平成30年12月)」の定義を要約すると、「IT化を手段として、"業務に係るすべて"を変革し、ビジネス環境の変化に対応できる競争力をつけること」です。"業務に係るすべて"とは、サービスだけではなく、組織や風土といった"仕組みや文化"も含みます。デジタル化はあくまでも手段であり、目的は” ビジネス環境の変化に対応できる競争力をつけること”になります。
データ分析
データ分析とは、「事象や文字、数値といったデータを収集し、"分類・整理・成型・選択"したうえで、"傾向や結果"を解釈すること」です。
データ分析を活かしたDXの重要性
ITの進化により、データを収集することは簡単になってきていますが、収集したデータを分析しなければ、せっかく集めたデータの意味がありません。
データ分析から、必要な変革点を考えることがDXにとって重要です。経済産業省の報告によれば、「IT人材不足」と「現状のままの基幹システム」が障害となり、2025年~2030年の間に、年間で最大12兆円の経済損失が予測されています。
反対に、DX推進により、2030年の実質GDPは130兆円の押上が予測されています。日本では、少子高齢化の影響により、労働人口が減少傾向にあります。
ビジネスモデルの変革や、IT人材の育成を行わなければ、競争力が下がっていくことが目に見えています。そのためにも、DXを推進することで、企業自体が変わっていくことが求められています。
DXにおけるデータ分析に必要な3つのステップ
DXにおけるデータ分析の目的は、たったひとつ。「"傾向や結果"から、経営戦略やマーケティングに有用な真因追及や課題解決をすること」です。
例えば、「売上目標未達」という事象に対し、経験による予測という、根拠のないデータから、「研修量不足」を原因としてしまうケースがあります。
しかし、データ分析を行うことによって、「売上目標未達」の原因が、実は「災害支援による営業時間の減少」だったというように、予測とは異なる原因ということが明らかになります。
「研修量不足」に対する戦略と、「災害支援による営業時間の減少」では戦略は異なりますよね?正しいデータ分析を知ることで、正しい戦略を考えることができます。ここからは、DXのデータ分析に必要な3つのステップを紹介していきます。
1. 目標を明確にする
企業では、新事業やマーケティングを展開する場合、具体的な目標を設けます。データ分析においても同様で、具体的な目標設定が正しいデータ分析のスタートです。具体的な目標設定とは、「数値や数量と期間を定めること」です。「上半期で、売上を前年度比10%UP」のように、具体的な目標を設定することで、アクションプランもより具体的に考えることができます。このことは、一見簡単にみえますが、多くの企業が具体的な目標設定ができていないということが現実です。
また、目的がデータ分析になってしまうケースも存在します。データ分析の目的は、真因追及や課題解決をすることです。手段が目的にならないように、データ分析の目的を見失わないようにしましょう。
2. 相関関係と因果関係
データを分析すると、相関関係と因果関係が発生します。この2つの意味を理解することが、データ分析に必要な要素になります。相関関係とは、「Aが変動すると、Bも変動すること」です。ただし、AとBには直接的な関係がありません。因果関係とは、「Aが原因となり、Bが変動すること」です。AとBには直接的な関係があります。例えば、”災害支援の日数”と”売上”には因果関係があるといえますが、”研修時間”と”売上”は、相関関係はあっても因果関係があるとまでは言えません。
データ分析において重要なことは、「相関関係ではなく、因果関係を導き出すこと」です。相関関係と因果関係を正しく理解して、データ分析を行いましょう。
3. データの可視化
データ分析は、”予測と検証”を繰り返し行います。例えば、売り上げが下がった原因は、「雪が降ったからではないのか?」「品質が悪かったからではないのか?」というように、予測をたてたうえで、データを比較して検証します。予測から検証までのプロセスに、データの可視化が重要な役目を果たしています。データ分析をするためには、収集したデータを分析できるように、可視化することが必要です。
データの可視化は、「”気づき”をもたらしやすいこと」が特徴です。一番わかりやすい例は、グラフです。数字だけの売上データを見る場合と、グラフ化されたデータを見る場合とでは、関係性に"気づく"までの時間が異なります。気づきが早まることで、正しい戦略を考えることができます。
DXでデータ分析を活用する3つの手法
データ分析を活用した業務変革には、様々な手法が存在します。”顧客データ”を分析することで、”顧客の傾向”や”ロイヤルカスタマー”を知ることができます。
”顧客の傾向”から、”サービスの販売戦略”を考えることができます。業務を分析し、デジタル化・システム化することで、社員の労働環境を見直すことができます。
ここからは、「サービス」「顧客」「社員」という業務における3つの柱について、データ分析の有効性を紹介していきます。
顧客データを用いた販売戦略
市場の急激な変化に対応するためには、顧客データの分析が欠かせません。
顧客の属性情報や購買履歴に基づいて、マーケティングの方向性を決めることにより、事業の成長が加速します。
正しい顧客データの分析ができていない場合、どんなサービスでも売れないだけでなく、企業にとって不要なコストもかかってしまいます。
顧客の属性情報を分析することで、ニーズがある地域や時間がわかります。購買履歴を分析することで、購入頻度や購入金額、商品の組み合わせがわかります。
データに基づいて顧客を理解することにより、「どんな顧客がいるのか?」「何を求めているのか?」「いつ欲しいのか?」「何が欲しいのか?」が明らかになり、正しいマーケティング戦略を考えることができます。
ロイヤルカスタマーの選定
ロイヤルカスタマーとは、自社のサービスに高い愛着を持っている顧客のことです。
特徴としては、「他社サービスを利用しない」「サービスを繰り返し利用してくれる」「サービスを周囲に勧めてくれる」ことが挙げられます。
ロイヤルカスタマーは、顧客全体の20%を占めていますが、売上に関しては全体の80%を占めると言われており、「パレートの法則」が当てはまります。売上の80%を占めるロイヤルカスタマーを特定することで効果的なマーケティングになります。
自社にとって、「ロイヤルカスタマーはどんな存在なのか?」を定義し、「予備軍」も含めて特定しましょう。ロイヤルカスタマーは、「属性データ」「行動データ」「アンケート」で特定できます。
労働環境の見直しによる生産性向上
「働き方改革」により、労働時間削減は推進されているように見えますが、実態は、「サービス残業が増える」「業務に支障が出る」といった影響が出ています。
会社にいる時間、つまり「会社が管理している労働時間」が削減されただけで、本質的な変革にはなっていません。変革どころか環境的には悪化しているため、このままでは社員が疲弊するだけです。
本質的な変革を行うためにも、情報共有ツールや各種申請書をはじめとした、時間や手間が掛かっている業務をデジタル化・システム化することで、本当の労働時間が削減され、生産性も向上します。
デジタル化・システム化は、労働時間だけではなく、在宅ワークといった労働環境を見直すこともできます。
DXのためにデータ分析する際の注意点
データ分析するには、「データを作ること」と「データをためること」が、スタートになりますが、考えすぎてしまい、手段であるはずの「データを作ること」と「データのためること」が目的になってしまうことがあります。
データを分析すると言われると複雑に考えてしまいがちになるので、シンプルに考えるようにしましょう。
また、間違ったデータの使い方や、正しくないデータを使ってしまっては、せっかくためたデータも意味が無いものになってしまいます。次からは、データの活用方法と、信憑性について紹介していきます。
データの活用方法
データを扱うということは、扱うデータのデータ形式や入力方式がそろっている必要があります。
多くの企業では、データが部署ごとに最適化されていて、全体として扱えるデータ形式になっていないというケースがあります。
入力方式も同様で、こちらは個人単位でバラツキがあります。例としては、”生年月日”です。A部署では西暦で入力していましたが、B部署では和暦で入力していたといったように、同じ内容でも、入力方式がバラつくケースがあります。
データ形式や入力方式に関しては、仕組みやシステムで統一することが必要です。また、データ活用には、データ流出のリスクを最小限に抑えることも必要です。
関連するすべての会社や係る人がセキュリティに対する知識を持つことが大切です。
データの信憑性
データを分析するには「正しいデータ」を使用しなければなりませんが、どんなデータでも誤差があります。
その誤差を小さくするためには、多くのサンプル数が必要になります。600を超える数から誤差範囲が±1%になるため、統計学では、誤差が安定する最低サンプル数は"600"と定義されています。データ分析には最低600個のサンプルを収集しましょう。
また、データが「正しく作られているか?」「正しく加工できているか?」も確認が必要です。
いくら600以上のサンプルがあっても、正しく作られていなければ、正しい分析ができません。システムにより、データの流れを可視化することで、「正しく作られているか?」を確認することも大切です。
まとめ
DXとは、「IT化を手段として、"業務に係るすべて"を変革し、ビジネス環境の変化に対応できる競争力をつけること」です。データを分析すると、思ってもいない結果や傾向が分かります。
ただし、「データを集めること」や「データを分析すること」あくまでも手段であり、目的は競争力をつけることです。
「正しいデータ」を使用して、「正しいデータ分析」をすることで、これまでにないビジネスモデルを生み出し、競争力をつけることにつながります。正しい方法でDXを成功させましょう。