ダッシュボード設計の10の基本原則:アナリティクスのベストプラクティス
多くの組織にとって、効果的なダッシュボード設計を実現することは、繰り返し発生する課題です。
率直に言えば、多くの労力をかけて作ったダッシュボードが、対象ユーザーにまったく見られていない可能性があります。
しかしこの課題は、いくつかの基本原則を押さえることで、簡単に改善できます。
本ブログでは、ユーザー体験を導き、複雑な内容でも理解しやすくし、BI投資の活用度を高めるために設けられている、ダッシュボード設計における10の基本原則を紹介します。
ダッシュボードには何を載せるべきか?
ビジネスインテリジェンス (BI) ダッシュボードの主な目的は、ビジネスデータを視覚的かつインタラクティブな形で伝え、何が重要かを強調し、読み手に分かりやすく整理して提示することです。これにより、ユーザーがより良いデータ主導の意思決定を行えるようになります。
この目的を支えるために、デザインの要素や原則、人間がどのように意思決定を行うかに関する理解が存在します。
しかし残念ながら、優れたアイデアであっても、デザインの実行が不十分だったり、判断ミスによってユーザーに過度な認知負荷をかけてしまい、ダッシュボードが使い物にならなくなることもあります。
この課題は、以下のような調査結果にも表れています。たとえば、「企業の72%がまだデータ文化を構築できておらず、69%がデータドリブンなビジネスを実現できていない」という調査 (Big Data and AI Executive Survey) が示すように、リーディング企業ですら「データ主導型企業」になることに苦労しています。
その要因のひとつが、ダッシュボードのUIデザインに関する基本的な配慮が不足していることです。この基本を押さえないまま、色、画像、レイアウトといった具体的なデザインテクニックや分析のベストプラクティスに進んでしまっているのです。
今日のダッシュボード設計における課題
では、この問題はどこから来ているのでしょうか?
多くのダッシュボードは、視覚化、指標、ディメンション、説明文、色など、ユーザーが理解しなければならない多数の要素を含んだ複雑なシナリオを伝えようとします。
さらに近年では、自動ビジネスモニタリング、データストーリーテリング、自然言語クエリ (NLQ) などの機能がモダンダッシュボードの標準的な要素として期待されるようになり、これらも視覚的に考慮すべき対象となっています。
こうした背景から、データを明快かつ魅力的に伝えることは、ますます難易度の高い課題となっています。
だからこそ、ダッシュボードの設計者は、ユーザー体験を導き、シンプルにする責任があります。表示されている内容が、誰にとってもできるだけ分かりやすくなるよう配慮することが不可欠です。言い換えれば、デザインが情報の理解を妨げてはならず、伝えたいストーリーを伝えるための効果的な手段であるべきなのです。
📖 関連記事:BIにデザインが重要な理由
ダッシュボード設計における10の原則とは?
優れたダッシュボードを作るには、「データが分かりやすく、関連性があり、行動に移せるように設計されていること」を保証する、明確なデザイン原則に従うことが出発点となります。以下では、ダッシュボード設計の重要な要素をご紹介します。
#1 – 情報を効果的に提示する
まず最初にすべきことは、そのダッシュボードが誰のために作られるのか、明確に理解することです。
ユーザーごとに異なる分析スキルやニーズに応じて、「どのような形でデータを提示すれば意思決定に役立つのか」を考慮し、それを踏まえた適切なダッシュボードインターフェースを設計します。これにより、ユーザーが必要とする洞察に到達するための「データジャーニー」を自然に導くことができます。
以下は、代表的な5つのダッシュボードタイプです。
-
戦略的ダッシュボード (Strategic dashboards):
経営層や意思決定者向けに設計されており、企業全体のKPIや長期的な目標に関するパフォーマンスを可視化します。ビジネス全体や特定部門のトレンドやベンチマーク、相対的パフォーマンスを理解するために使用されます。
-
オペレーショナルダッシュボード (Operational dashboards):
現場スタッフが日常業務を管理するために使用。リアルタイムデータによって、プロセスやワークロード、アラートを監視します。業務レベルの意思決定に用いられる、領域特化型のダッシュボードです。
-
分析ダッシュボード (Analytical dashboards):
アナリストなど熟練ユーザー向けに設計され、ドリルダウンやフィルター機能を活用し、原因分析や傾向の発見を行います。データをスライス&ダイスして、異常や例外、洞察を抽出するためのダッシュボードです。
-
情報提供型ダッシュボード (Informational dashboards):
ビジネスの収益・支出・利益などの概要を迅速に伝えることに特化しています。多忙なエグゼクティブに最適で、しばしばインフォグラフィック形式で視覚的に表現されます。
-
コンテクスチュアルダッシュボード (Contextual dashboards):
特定の業務アプリケーションに深く組み込まれており、ワークフローやトランザクションをサポート・トリガーします。特にSaaS製品などにおける埋め込み分析用途で重要です。
このように、ユーザーごとに最適なダッシュボードのタイプを選定することが、その他の設計原則を適用するための基盤となります。
#2 – 視覚的な一貫性を保つ
分かりやすいダッシュボードデザインは、フォント、色、グラフィック要素の統一された使い方によって実現されます。
ダッシュボードの設計は、ユーザーの分析体験を支援するものであり、意識しなくても自然とデータを理解できるように導く「サブリミナルなガイド」として機能すべきです。
色やフォントの不一致、過度な装飾などはユーザーの注意をそらし、データの理解を妨げる可能性があります。視覚的な一貫性は、デザインの信頼性とプロフェッショナリズムを高め、分析体験をスムーズにします。
過度にデザインしすぎないことは、正しい情報を明確に伝えることと同じくらい重要です。フォントの種類とサイズは最小限に抑え、見出しのサイズは一貫性を持たせましょう。また、使用する色もダッシュボード全体で統一する必要があります。特定のキーとなるディメンションや指標を強調するために特定の色を使った場合は、すべてのダッシュボードで同じ色をその項目に使用してください。
よく見られる誤りとして、異なる項目に同じ色を使用してしまうケースがあります。これでは、閲覧者が正しく解釈するのに時間がかかり、混乱を招く可能性があります。一方で、色を正しく使えば、重要な指標の存在感を高めることができます。上の例を見てみると、「加重犯罪」というディメンションが常にオレンジ色で強調されており、最も重要な数値へと自然に視線を誘導しています。
最後に、スマートなデータダッシュボードでは、すべてのビジュアル要素を秩序立った階層構造と方法で提示する必要があります。それがないと、データが複雑になりすぎて、閲覧者がどこを見ればいいのか分からなくなったり、情報を明確かつ魅力的に伝えられなかったりするリスクがあります。
同じダッシュボードの別の例では、最も重要な情報が上から下へと明確に構成され、行と列に分けて簡潔に整理されています。これにより、各ディメンションごとの必要な指標をすぐに参照できるようになっています。
#3 – 効率的なインタラクション
Yellowfin では、多くのダッシュボードに不要なグラフィカル要素やインタラクティブ要素が多く含まれているのをよく見かけます。重要なのは、「特定のレポートや可視化が使えるからといって、必ずしも使う必要はない」ということです。
ユーザーがダッシュボード上の情報と効率的にやり取りできるようにするには、ユーザーのニーズに関係ないビジュアライゼーションは削除すべきです。フィルター、アクション、インタラクションは明確で、エンドユーザーの業務フローに論理的に合致している必要があります。たとえば Yellowfin では、ローコードまたはノーコードモードを使ってテーブル内にアクションを追加することが可能です。これにより、ユーザーがチャートを見ているその瞬間に、適切なワークフローを統合できます。
たとえば、どの広告が機能しているかどうかを示すセールスチャートを見たあと、別の場所に移動して対応する必要があるのではなく、その場でユーザーに関連情報を送るボタンをダッシュボード内に追加できます。こうした機能により、ダッシュボード上でのインタラクションをより効率的に行うことができます。
効率的なデータダッシュボード設計とは、「利用できるから」といってすべてを1ページに詰め込むことではありません。適切にスペースをとることで、情報過多を避ける必要があります。
-
ユーザーが意思決定を行うために必要なデータだけを表示する
-
情報を「とりあえず入れておく」のは避ける
-
ユーザーがどのような状況でダッシュボードを見るのかを理解する
-
どのような意思決定やアクションが必要なのかを把握する
-
そのために必要なデータを提供する
この基本的なダッシュボード利用の流れから外れる情報は、閲覧者にとって過剰で不要なものになります。場合によっては、ユーザーがダッシュボードから離れてしまう原因にもなりかねません。最終的には、エンドユーザーとそのニーズを深く理解し、彼らが効率的に行動できるようなダッシュボードを作るにはどうすればよいかを、協力しながら考えることが重要です。
#4 – 言語の効果的な活用
言語は、色やフォント、スタイルと同様にデザインやユーザー体験のツールです。
ラベル、注釈、説明を明確かつ丁寧に記載することで、エンドユーザーが複雑なビジュアライゼーションやレイアウトを正しく理解し、迷わず操作できるようになります。
特にチャートにラベルを付ける際には具体的に説明することが重要です。「ユーザーは何が表示されているか分かっているだろう」と思い込んでしまうケースは、Yellowfinでもよく見られる大きな問題です。
上記の例を使うと、たとえばダッシュボードの一部に単に「売上 (Sales)」とだけラベルを付け、全体のストーリーの中での位置づけをユーザーに委ねてしまうのではなく、タイポグラフィの工夫を活かして、具体的かつ詳細なラベルを記載することが重要です。
たとえば、「店舗別売上と平均気温」などの明確な見出しを付け、その下に簡潔な説明文を加えることで、ユーザーが「何の指標を分析しているのか」をすぐに理解できるようにします。
このシンプルな原則に従うだけで、初めてダッシュボードを見るユーザーも、何が示されているのかをすぐに把握でき、全体として良好な体験を得ることができます。
Yellowfinでは、デザイナーがチャートのラベルをわかりやすく記述するためのキャンバスタイプのオプションが数多く用意されています。また、ダッシュボード内にタブを追加する機能もあり、たとえば「全体概要」と「特定商品の売上パフォーマンス」に分けるなど、ダッシュボードのレイアウトを視覚的に整理しやすくできます。
#5 – 認知負荷の最小化
人は「選択すること」が好きだとよく言われますが、選択肢が多すぎるとすぐに圧倒されてしまうことが研究でも示されています。無意識のうちに、精神的に負担のかかるインターフェースや状況を避ける傾向があります。
要素を詰め込みすぎると、「何も選ばれない」状態になる可能性があります。そして、これは「選択のパラドックス (choice paradox)」と呼ばれる現象につながります。つまり、脳の「ゆっくり考えるシステム(熟考システム)」が働き、人は結局、慣れ親しんだ安全なものに戻ってしまうのです。
この選択のパラドックスは、ダッシュボード設計においても非常に重要な概念です。選択肢を絞り込み、必要な情報に集中できるデザインが求められます。
デザインはしばしば「視覚的に心地よいもの」として語られますが、本来の目的は“精神的に心地よいもの”であることです。確かに「見た目」が良いのは大切ですが、それ以上に「使っていて気持ちいい」と感じられることが、本当に“良いデザイン”とされます。
つまり、以下の原則に忠実である必要があります:
-
表示するビジュアル要素を必要最小限に抑える
-
ダッシュボード上で可能なアクションを制限する
-
本質的に必要なものだけを残し、余計な要素は排除する
ダッシュボードデザインが成功しているかどうかは、ユーザーがデータを解釈して意思決定する際に必要な労力をいかに最小限にできているかにかかっています。情報ダッシュボードの設計がうまくいっていれば、データの視覚的な伝達がスムーズに行われ、視線の流れを意識した明確な階層構造が構築されているはずです。たとえば、重要な情報は上部に配置し、優先度の低い情報は下部へ配置すると、ユーザーの視線は自然と導かれます。
一方、ユーザーが圧倒されてしまい、直感的に操作できなければ、せっかく作ったダッシュボードもすぐに見放されてしまう可能性があります。それは、制作にかけた努力を考えれば、避けたい状況です。
#6 – レスポンシブ対応を意識する
理想的なダッシュボードは、あらゆるデバイスやプラットフォーム上で完璧に動作する必要があります。たとえば、移動中にスマートフォンでKPIダッシュボードを確認するようなケースです。
レスポンシブなダッシュボードデザインとは、表示する画面サイズやデバイスの向きに応じて、自動的に最適な形でデータビジュアライゼーションが表示されるようにすることです。これにより、視認性・操作性・パフォーマンスを保ち、どの環境でも快適に使えるダッシュボードが実現します。
レスポンシブなダッシュボードを構築するには、以下のような工夫が推奨されます:
-
スケーラブルなレイアウトや柔軟なグリッドシステムを使用する
-
スマートフォンなどの小さい画面に最適化して、フォントサイズやチャートの余白を調整する
-
モバイル表示では、重要度の低い要素を省略または簡略化する
#7 – スピードを意識した設計を行う
ダッシュボードの読み込みが遅いと、ユーザーのエンゲージメントに悪影響を及ぼします。
スピードとパフォーマンスは、ユーザーの満足度や生産性に直接関わる非常に重要な指標です。読み込みが遅いことで、せっかくの分析体験が台無しになり、BIへの関心が薄れてしまうことも考えられます。
ユーザーにシームレスな体験を提供するためには、高速表示が可能なダッシュボード設計が欠かせません。以下はパフォーマンスを最適化するためのポイントです:
-
複雑なビジュアライゼーションの数を1ページあたりで減らす
-
ダッシュボードに表示する前にデータをフィルタリングしておく
-
アクセスが少ない時間帯にデータをリフレッシュするようにスケジューリング
-
可能であれば、オンデマンドで読み込むウィジェットを使用する
#8 – AIで拡張する
生成AI(Generative AI)の活用は日々進化しており、データ収集や業務の効率化に貢献しています。
最近のダッシュボードは単なるデータの表示にとどまらず、AIアナリティクス機能を統合することで、データの分析や解釈を自動化しています。たとえば、YellowfinのAI対応NLQはその代表例です。
AIを統合したダッシュボードには、以下のような優れた機能があります:
-
外れ値や異常値をリアルタイムに検出
-
主要なトレンドや予期しない変化を自動で可視化
-
自然言語でデータを解説するナラティブを生成
AIが搭載されたダッシュボードは、ユーザーによる手動の分析作業を減らし、人間では見落としがちなインサイトを引き出してくれます。
#9 – ダッシュボードを常に最新の状態に保つ
ダッシュボードを有効に機能させるには、常に最新で関連性の高いデータを表示していることが重要です。
古い指標を使ってしまうと、誤った意思決定や業務の非効率化、ユーザーの信頼低下につながります。見た目が整理された効率的なダッシュボードを設計するだけでなく、表示される情報が常に正確かつ最新であることを保証する必要があります。
ダッシュボードの価値を保つためのポイント:
-
定期的なデータ更新のスケジュール設定、またはリアルタイム接続の導入
-
KPIや指標の定期的な見直しで、常に関連性の高い情報に保つ
-
リンク切れ、未使用のフィルター、古いラベルの監査と修正
定期的なメンテナンスにより、ダッシュボードがビジネスの成長とともに進化し続けます。
#10 – データの正確性を維持する
データの正確性を保つことは、優れたダッシュボードを実現し、意思決定の有効性を左右する要素です。
もしダッシュボードが誤った、または矛盾した情報を表示していた場合、ビジネスにとって致命的な誤判断を招く可能性があります。したがって、正確なデータは、技術的なパフォーマンスだけでなく、ダッシュボードの信頼性と有用性にも直結します。
データの正確性を確保する方法:
-
信頼性のあるクリーンなデータソースから取得する
-
一貫した変換・検証ルールを使用する
-
ビジュアライゼーションをテストして、正しい結果が得られていることを確認する
-
**業務知識を持つ専門家(SME)**に出力内容のレビューを依頼する
結論
優れたダッシュボード設計とは、見た目の美しさだけでなく、「明確さ」「関連性」「使いやすさ」に重点を置いて設計されていることです。
情報の階層構造、ビジュアルの一貫性、AIによるインサイトなどの設計原則を適用することで、ビジネスに実際のインパクトをもたらすダッシュボードを構築することができます。
Yellowfinの豊富な機能を活用すれば、賢く、アクションにつながり、ユーザーフレンドリーなダッシュボードを作成でき、チームの生産性向上やROIの改善にもつながります。
ぜひ、インタラクティブな無料ダッシュボードギャラリーで、その設計機能を体感してみてください。
よくある質問 (FAQs)
Q1. ダッシュボード設計におけるベストプラクティスは何ですか?
単にチャートや指標を見せるのではなく、シンプルなデータを有用な情報へと変換することが、優れたダッシュボードの鍵です。以下は、使いやすさ・関心度・データに基づいた意思決定を実現するための設計ベストプラクティスです:
-
ユーザーを理解する:ユーザーの役割やニーズに合った設計にする
-
明確な目的を設定する:必要な情報だけが表示されるように目標を定義する
-
適切なビジュアライゼーションを選ぶ:データの種類に合ったチャート形式を使うことで、内容をより分かりやすくする
-
データの優先順位をつける:重要な情報から順に表示し、整理された構造にする
-
シンプルを心がける:不要な要素を削除し、認知負荷を軽減する
-
一貫性を保つ:色、フォント、レイアウトを統一することで、視認性と理解度を向上させる
Q2. ダッシュボードの4つの基本要素は何ですか?
-
データソース
-
ビジュアライゼーション(可視化)
-
KPI/指標
-
インタラクティブフィルター
Q3. ダッシュボードにおける「5秒ルール」とは何ですか?
ユーザーがダッシュボードを見てから5秒以内に、重要なポイントを把握できることが理想とされています。これが「5秒ルール」です。
Q4. ダッシュボードの3つのレイヤーとは何ですか?
-
要約レイヤー:ハイレベルな全体像を示す
-
診断レイヤー:トレンドや異常の原因を深掘りする
-
詳細データレイヤー:個別データを詳しく分析するための情報
Q5. ダッシュボードにはいくつのビジュアルを配置すべきですか?
理想的には5〜9個のビジュアルが推奨されます。これにより、ユーザーの集中力を保ちつつ、情報過多を防ぐことができます。







