業績分析を行うには?財務諸表と4つの分析手法をわかりやすく解説!
業績分析をしたいけども業績分析の方法がわからない
業績分析をするにあたって財務諸表の概要自体を知りたい
業績分析をするにあたって財務分析の各指標の意味を知りたい
企業の業績を成長させるために、業績分析により企業の現状を知り課題を把握することは必要です。もし、業績分析をせずして企業の経営を進めてしまうと資金繰りの悪化につながってしまったり、最悪の場合倒産につながる可能性も出てくるかもしれません。
今回は、業績分析のために必要な財務分析について具体的な方法を含めて、わかりやすくまとめてみました。これから財務分析をしていこうと考えている企業担当者の方に対しても正しく理解して活用できる内容にしていますので、是非ご一読いただければと思います。
業績分析とは?
業績分析とは、財務を分析して企業の状況を把握することです。具体的には、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表をもとに、会社の収益性・安全性・生産性・成長性を分析し、競合他社や業界内の位置づけを確認します。
貸借対照表は企業の資産と負債がわかり、決算日に企業のお金がどのくらいあるのか、借金がどのくらいあるのか把握することができます。また、損益計算書であれば、収益・費用・利益の3要素で構成されており、企業が1年でどのくらい稼いだのか(損したのか)を把握することができます。
業績分析に必要な財務諸表
ここでは、業績分析に必要な財務諸表に関して解説します。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュフロー計算書
それでは、1つずつ解説します。
貸借対照表
業績分析に必要な財務諸表の1つ目は、貸借対照表です。貸借対照表は、企業の資産・負債の金額を記載している資料で企業の財政状態を把握することが可能です。ここでいう資産とは、現金・普通預金・建物・売掛金・手形・有価証券などの企業が持っている財産が該当します。
また、負債は、借入金・買掛金などの借金が該当し、どのくらいの規模感の支払い義務を負っているのかが把握できます。この資産から負債を引いた金額が純資産と言われる企業が持っている自己資本のことです。
損益計算書
業績分析に必要な財務諸表の2つ目は、損益計算書です。損益計算書は、1年間の収益と費用の金額を記載した資料のことです。損益計算書を活用することで、企業の経営成績を明らかにすることができます。収益は企業が稼ぎ出した収入のことで、費用は企業が支出したお金のことです。収益と費用を差し引くことで、当期の利益を把握することができます。
また、収益や費用もどのように利益を得たのか、何に費用を使ったのかがわかるように各費目勘定が分かれています。
キャッシュフロー計算書
業績分析に必要な財務諸表の3つ目は、キャッシュフロー計算書です。キャッシュフロー計算書は、名前の通りお金の流れを把握することができる資料です。キャッシュフロー計算書を作成することにより、期首からキャッシュがどのように出入りしたのかがわかり、最終的に期末でどのくらいの資金が残っているのかがわかります。そのため、資金不足にならないような対応をとることが可能です。
業績分析を行うための財務分析の手法
ここでは、業績分析を行うための財務分析の手法について解説します。
- 収益性分析
- 安全性分析
- 生産性分析
- 成長性分析
それでは、1つずつ解説します。
収益性分析
財務分析の1つ目の手法は、収益性分析です。収益性分析は、企業のお金を稼ぐ力を把握することができる分析です。収益性が高い企業は利益を生み出す力が高いため、資金を投資家から募りやすいというメリットがあります。
収益性分析の指標としては、下記があります。
- 売上高総利益率
- 売上高営業利益率
- 売上高経常利益率
- 売上高当期純利益率
- 総資本回転率
- 総資本利益率(ROA)
- 自己資本利益率(ROE)
それでは、1つずつ解説します。
売上高総利益率
収益性分析の1つ目の指標は、売上高総利益率です。売上高総利益率の計算式としては下記になります。
売上高総利益率 = 売上総利益 / 売上高 × 100
売上高総利益率は、粗利率とも呼ばれ売上高から原価を差し引き、売上総利益を売上高で除して計算をします。売上高総利益率は、商品の利益率を計算するときなどに使用されます。仮に売上高総利益率が前年比よりも下がっている場合は、仕入原価の高騰や販売単価の落ち込みなどの可能性があります。
売上高営業利益率
収益性分析の2つ目は、売上高営業利益率です。売上高営業利益率の計算式としては下記になります。
売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
売上高営業利益率は、企業の営業活動によって得た利益である営業利益を売上高で除して算出します。売上高営業利益率は、本業である営業活動で稼ぐ力を把握できる指標になります。仮にこの売上高営業利益率が悪い場合は、経費がかかりすぎてしまっており商品やサービスを効率よく販売できていないことが推測できます。
理由としては、営業利益は売上から売上原価を差し引き、更に販売費及び一般管理費を引いた金額であるからです。
売上高経常利益率
収益性分析の3つ目は、売上高経常利益率です。売上高経常利益率の計算式としては下記になります。
売上高経常利益率 = 経常利益 / 売上高 × 100
売上高経常利益率は、経常利益の売上高に対する割合のことです。この経常利益に関しては、 下記の計算で算出されます。
経常利益=営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用
営業利益のように本業のみの利益だけではなく、営業外収益と呼ばれる受取利息や不動産賃料などの経常的に得ている収益を加味しています。また、営業外費用と呼ばれる支払利息も加味されるため、企業の総合的な稼ぐ力が売上高経常利益率によって把握できます。
仮にこの売上高経常利益率が低い場合は、総合的な収益性が低く効率的な会社経営ができていないと言えます。
売上高当期純利益率
収益性分析の4つ目は、売上高当期純利益率です。売上高当期純利益率の計算式としては下記になります。
売上高当期純利益率 = 当期純利益 / 売上高 × 100
当期純利益は、一会計期間で全収益から全費用や法人税等を差し引いて最終的に残る利益のことをさします。この当期純利益の売上高に対しての割合が売上高当期純利益率です。仮にこの売上高当期純利益率の数値が悪い場合は、特別損失などの影響がある可能性があります。
総資本回転率
収益性分析の5つ目は、総資本回転率です。総資本回転率の計算式としては下記になります。
総資本回転率 = 売上高 / 総資本(自己資本+他人資本)
総資本回転率は、事業に投資をした総資本が売上高でどれだけ回収できたかを示す指標です。つまり、事業投資をして売上に有効につながったかが総資本回転率でわかります。総資本回転率の単位は、回転を使用します。この回転率が高ければ高いほど、少ない資本で大きな売上を出していることがわかり、効率的に資本を活用することができていると言えます。
総資本回転率が高くなる業種としては、短期間で販売を行う小売業・卸売業になります。一方で、不動産業などは建物・土地などの高額な資産を保有しており、賃貸売上が売上の大半を占める場合があるため、総資本回転率は低くなるケースがあります。
経済産業省の調査では、小売業・卸売業は1.75回転、宿泊業・飲食サービス業1.14回転、不動産業0.25回転となっています。
出典:サービス産業×生産性研究会 第1回事務局説明資料|経済産業省
総資本利益率(ROA)
収益性分析の6つ目は、総資本利益率(ROA)です。総資本利益率(ROA)の計算式としては下記になります。ROAは、Return On Assetの略です。
総資本利益率(ROA) = 経常利益 / 総資本(自己資本+他人資本) × 100
総資産利益率とも呼ばれ、企業の経営効率を測る指標の1つです。総資本に対しては、銀行の借り入れも含めた資本も含めます。そのため、企業の資産がどれだけ利益に貢献できたかをあらわす指標になります。
自己資本利益率(ROE)
収益性分析の7つ目は、自己資本利益率(ROE)です。自己資本利益率(ROE)の計算式としては下記になります。ROEは、Return On Equityの略です。
自己資本利益率(ROE) = 当期純利益 / 自己資本 × 100
自己資本利益率(ROE)は、株主が投資をした自己資本を用いてどれだけ利益を稼ぎ出したかをみる指標です。株主としては、投資をしてどれだけ利益を効率的に得られるのかを判断する基準にもなるため、投資判断の指標として重要視されています。
一方で、この自己資本利益率(ROE)は、負債の割合が多い場合も数値が高く出てしまうため、負債の総資産に対しての割合も確認しておく必要があります。
安全性分析
財務分析の2つ目の手法は、安全性分析です。安全性分析は、支払い能力、倒産の可能性がないかを確認するための指標です。
安全性分析の指標としては、下記があります。
- 短期的な支払能力を見る指標:流動比率
- 短期的な支払能力を見る指標:当座比率
- 長期的な支払能力を見る指標:負債比率
- 長期的な支払能力を見る指標:固定比率
- 長期的な支払能力を見る指標:固定長期適合率
- 長期的な支払能力を見る指標:自己資本比率
それでは、1つずつ解説します。
短期的な支払能力を見る指標:流動比率
安全性分析の1つ目は、流動比率です。流動比率は、短期的な支払能力を見る指標の1つで、流動資産の流動負債に対する割合になります。計算式としては、下記になります。
流動比率 = 流動資産 / 流動負債 × 100
流動資産は1年以内に現金化できる資産のことで、流動負債は1年以内に支払わなければならない負債になります。そのため、流動比率が仮に100%切ってしまっている場合は、資金繰りが厳しいと言えます。
短期的な支払能力を見る指標:当座比率
安全性分析の2つ目は、当座比率です。当座比率は、流動比率よりも更に短期的な支払能力を見るための指標です。計算式としては、下記になります。
当座比率 = 当座資産 / 流動負債 × 100
当座資産は、現金、預金、有価証券、売掛金などの流動資産の中でもより現金化しやすい資産のことで商品など現金化に時間がかかるものは除きます。
当座比率は、当座資産の流動負債に対する割合です。当座資産の割合が100%を超えていれば、現金化の手間なく負債の支払いに対応できることになりますので、より財務面で安全性が期待できることになります。
長期的な支払能力を見る指標:負債比率
安全性分析の3つ目は、負債比率です。負債比率は、負債の自己資本に対する割合のことです。計算式としては、下記になります。
負債比率 = 負債 / 自己資本 × 100
負債は、借り入れなどの他人資本になりますので、自己資本よりも割合として低ければ低いほど財務状況としては安全であると言えます。
長期的な支払能力を見る指標:固定比率
安全性分析の4つ目は、固定比率です。固定比率は、固定資産の自己資本に対する割合のことを言います。計算式としては、下記になります。
固定比率 = 固定資産 / 自己資本 × 100
固定資産は、1年以内に現金化する予定のない資産のことです。具体的には、建物、土地、工場の設備などです。この固定資産を自己資本でどれだけまかなうことができているかを示すのが固定比率です。
固定比率が100%を超えてしまっている場合は、建物や土地、設備などに対して過剰な投資をしている可能性があります。
長期的な支払能力を見る指標:固定長期適合率
安全性分析の5つ目は、固定長期適合率です。固定長期適合率は、固定資産を安定した資金でまかなえているかどうかを判断する指標です。計算式としては、下記になります。
固定長期適合率 = 固定資産 / (自己資本+固定負債) × 100
ここでいう安定した資金というのは、自己資本だけではなく返済期限が長期の借入金も自己資本に近い使用ができるため含めています。
固定長期適合率が100%を超えてしまう場合は、1年以内に支払いをしなければならない流動負債も資金源として設備投資などにあてている可能性があるため、財務状況としては安定していないことになります。
長期的な支払能力を見る指標:自己資本比率
安全性分析の6つ目は、自己資本比率です。自己資本比率は、企業の借入金の割合が適正なのかを知ることができる指標です。計算式としては、下記になります。
自己資本比率 = 自己資本 / 総資本 (自己資本+他人資本)× 100
自己資本比率が高ければ高いほど安定した事業運営ができていると言えます。企業が存続していくことを考えれば銀行などの融資などの返済義務がある他人資本によって成り立っている企業よりも、返済義務のない自己資本で成り立っている企業の方が財務的に安定していると判断できます。
生産性分析
財務分析の3つ目の手法は、生産性分析です。生産性分析は、ヒト・モノ・カネの経営資源でどれだけ成果が出ているのかを把握するための分析です。
生産性分析の指標としては、下記があります。
- 労働分配率
- 労働生産性
- 資本生産性
それでは、1つずつ解説します。
労働分配率
生産性分析の1つ目は、労働分配率です。労働分配率は、人件費を利益から適正な分配ができているかを判断する指標です。計算式としては、下記になります。
労働分配率 = 人件費 / 売上総利益(粗利益) × 100
人件費の売上総利益に対しての割合が労働分配率です。労働分配率が高い場合は、利益から人件費を捻出しすぎている可能性があるため、企業の財務状況としてはあまり良くない場合があります。労働分配率が低い場合は、不当な労働を強いている可能性があります。
労働分配率の平均としては、小売業・卸売業・製造業ともに約50%前後を推移しています。
労働生産性
生産性分析の2つ目は、労働生産性です。労働生産性は、企業の付加価値を生み出すために人件費をどの程度効率よく活用できたかを見る指標です。計算式としては、下記になります。
労働生産性(円)= 付加価値額 / 従業者数
付加価値額の算出方法としては、売上から売上原価を差し引くなどして求めます。この労働生産性が高い場合は、従業員1人あたりの生産性が高く、人件費を効率的に活用できていると言えます。
一方で、労働生産性が低い場合は業務フローに無駄がないか改善点を確認する必要があります。
資本生産性
生産性分析の3つ目は、資本生産性です。資本生産性は、投下した資本が付加価値を生み出すためにどのくらい効率的に活用されたかを判断する指標です。計算式としては、下記になります。
資本生産性 = 付加価値 / 総資本 ×100
たとえば、生産性を高めるために大型の設備を導入する場合、投下した資本に対してどのくらいの付加価値が生まれているのかを確認する必要があります。
資本生産性が高ければ少ない資本で付加価値を創出している企業と言えるでしょう。
成長性分析
財務分析の4つ目の手法は、成長性分析です。成長性分析は、企業がどれだけ利益を稼ぎ出し成長しているのか、将来性はどの程度あるのかを判断するための分析です。
成長性分析の指標としては、下記があります。
- 売上高成長率
- 経常利益成長率
- 総資本成長率
- 売上高研究開発費比率
それでは、1つずつ解説します。
売上高成長率
成長性分析の1つ目は、売上高成長率です。売上高成長率は、一会計期間で売上高がどれだけ伸びたのかを把握するための指標です。計算式としては、下記になります。
売上高成長率 =(当期売上高 - 前期売上高) / 前期売上高 × 100
売上高成長率は、前期の売上高と当期の売上高を比較して計算をします。売上高成長率が高いことが事業が成長していると言えるため、数値は高ければ高いほど良いとされています。
経常利益成長率
成長性分析の2つ目は、経常利益成長率です。経常利益成長率は、一会計期間でどのくらい経常利益が成長したのかを把握できる指標です。計算式としては、下記になります。
経常利益成長率 =(当期経常利益 - 前期経常利益) / 前期経常利益 × 100
経常利益が成長していないと売上を拡大するために支出している費用を回収できないため、重要な指標となります。
総資本成長率
成長性分析の3つ目は、総資本成長率です。総資本成長率は、資本が一会計期間でどの程度増えたのかを把握するための指標です。計算式としては、下記になります。
総資本成長率 =(当期総資本-前期総資本) / 前期総資本 × 100
総資本に関しては、負債も含まれるため総資本成長率の数値が高くなったからといって一概に良いとは言えません。事業規模の拡大もわかる指標ではありますが、総資本の内訳を確認する必要があります。
売上高研究開発費比率
成長性分析の3つ目は、売上高研究開発費比率です。売上高研究費開発費比率は、売上高に対して研究開発費がどの程度占めるかの割合です。計算式としては、下記になります。
売上高研究開発費比率 =研究開発費 / 売上高×100
その企業が研究開発にどれだけ注力しているのかがわかる指標です。また、研究開発は将来への投資でもあるため、企業の将来の成長性を測る指標とも言えます。
まとめ
ここまで、業績分析を行うための財務分析について紹介してきました。紹介した財務分析の手法以外にも様々な分析方法があります。財務分析の指標に関しては、明確に何%以上なければならないということはありません。あくまで目安であり、まずは財務分析によって自社の強みや課題を把握するようにしましょう。
また、財務分析はあくまで財務諸表上の数値をもとに算出した数値になりますので、数値では測れない要素なども踏まえて総合的に業績の分析を進めるとよいでしょう。