組み込みビジネスインテリジェンスのベネフィット
あなたはベッドにのんびりと横になり、枕の丸みにクシャクシャの髪を埋めて、一匹の蟻が窓辺を歩く様子を眺めています。
痺れた腕を伸ばしてみましたが、動くことを考えるだけで億劫になります。今日は日曜日で、ベッドから起き上がるにはそれなりの理由が必要なのです。やる気がなければ、一日をただぼんやりと過ごすのは簡単です。
多くの企業は、既存のソフトウェアアプリケーションにレポート作成およびアナリティクスモジュールを統合する組み込みビジネスインテリジェンス (BI) に対して、同様の気持ちを抱いています。
これは、既存のアプリケーションやビジネスプロセスにアナリティクス機能を統合しようと考えている大部分の組織が、日曜日の怠惰な状態に囚われている、と言っているわけではありません。ただ、適切な動機付けがない限り、行動を起こすよりも何もしない方が勝るだろうということです。
それでは、最適な動機付けとはなんでしょうか。それは、明らかに識別可能なベネフィットがあることです。
Aberdeenが唱える組み込みBIのベネフィット
Aberdeen グループが発表した研究「BIのためのデータ管理: アナリティクスエンジンにハイオク情報を給油する (Data Management for BI: Fueling the Analytical Engine with High-Octane Information)」では、企業は増大するデータ量の効果的な活用に苦労していることから、組み込みBI機能に対する需要の増加が強調されています。このレポートによると、2012年には、平均的な企業でデータ量が前年比41%に増加し、これは平均15種類のデータソースから来ていることが分かっています。
さらに重要なことに、Aberdeenの別のレポート「エンタープライズアプリケーションへのBIの組み込み: 分析的影響の拡大 (Embedding BI in Enterprise Applications: Magnifying the Analytical Impact)」では、組み込みBIを使用している企業では、次のような多くの注目すべきベネフィットを享受していることが分かりました。
- 平均的な企業の営業利益が前年同期比10%増だったのに対して20%増だった
- 平均的な企業の純増収益が前年同期比12%増だったのに対して19%増だった
- 平均的な企業の営業キャッシュフローが前年同期比9%増だったのに対して16%増だった
また、既存のソフトウェアパッケージにBI機能を組み込むことで、(ユーザーが既に使い慣れている環境に組み込まれるため) ユーザー使用率/受け入れ率が高まり、ユーザーエンゲージメントのレベルが高まると主張されることがよくあります。さらに、組織全体で使用される既存のアプリケーションにレポート作成およびアナリティクス機能を組み込むことは、事実に基づく意思決定の文化、つまりパーベイシブ (広範な) BIを浸透させる効果的な方法であると言われています。
調査およびアナリスト企業大手のGartnerによると、企業のスタンドアローンBIツールの潜在的なユーザーのうち、このテクノロジーを使用しているのは30%にも満たないと言われています。他のアナリスト企業では、スタンドアローンのBIソリューションの導入率はさらに低く、8-20%に低迷していると推定されています。
これとは対照的に、Aberdeenの「エンタープライズアプリケーションへのBIの組み込み: 分析的影響の拡大 (Embedding BI in Enterprise Applications: Magnifying the Analytical Impact)」レポートでは、研究の調査対象となった組み込みBIユーザーの60%が、データに基づく意思決定が高く評価される「強力なアナリティクス文化」を背景に持つ組織に属していることが分かりました。
恐らく当然のことではありますが、同レポートでは、既存の業務ソフトウェア (セールス、人事、サプライチェーンアプリケーションなど) に組み込まれたBIを活用している企業は、オンプレミスのBIソリューションを使用している企業と比較して、ユーザー満足度が高いことが示されています。これには、以下のようなベネフィットが含まれます。
- BIの使いやすさに対する認識の向上
- 情報関連性の認識の向上
- レポート作成およびアナリティクス機能のアクセシビリティに対する認識の向上
では、このような組み込みBIのベネフィットの根底にあるものは何でしょうか?
著名なアナリストで研究者のWayne Eckersonは、TDWIの論文「組み込みアナリティクス: 運用およびアナリティクスアプリケーション間のループを閉じる (Embedded Analytics: Closing the Loop Between Operational and Analytics Applications)」の中で、「BIをシンプルかつ運用可能にする最善の方法は、ビジネスを推進する運用アプリケーションやプロセスに直接組み込むことである」、と主張しています。
Eckersonはさらに、BIの将来の大部分や、ユーザー使用率の向上および普及展開という点での継続的な成功は、組み込みBIにかかっていると述べています。
「ビジネスユーザーは、セットアップやトレーニングを必要とするスタンドアローンのBIツールセットを使用するのではなく、大規模なアプリケーションやパッケージの不可欠な一部分を担う組み込みBI機能を活用するようになるだろう」と、Eckersonは言います。「ユーザーは、運用プロセスからアナリティクスプロセスに移行する際に、ソフトウェアのコンテキストを移行する必要がなくなります。」
Eckersonは、スタンドアローンのBIソリューションを使用するユーザーは、関連するレポートにアクセスするために運用アプリケーションを終了し、BIツールから得られたインテリジェンスに基づいて適切なアクションを実行するために、再度運用アプリケーションに移動しなくてはいけないため生産性が低下する、とほのめかしています。
Eckersonによると、生産性の低下には以下2つの要因があると言います。
- ひとつのアプリケーションを終了し、別のアプリケーションに移動して、また最初のアプリケーションに戻る必要があることで、ユーザーの「一連の思考」が中断される
- 個別のBIアプリケーションを介して分析情報を表示する必要があるため、データが最適な文脈で表示されない
Eckersonは、ビジネスアナリティクスの有効性に対する明らかな障害により、多くの企業やソフトウェア開発者が組み込みBIに目を向けるようになるだろう、と述べています。
「将来的にユーザーは、単一でプロセス主導のアプリケーションのコンテキストおよびフロー内で分析的なインサイトを得ることになる」と、Eckersonは言います。「この時点では、BIはユーザーが日常業務を行うために使用する主要なアプリケーションのバックグラウンドに滑り込みます。そのためユーザーは、情報にアクセスし、分析するために、個別のBIツールを使用していることに気付くことはなくなるでしょう。」
しかし、Eckersonが指摘するように、組み込みBIはスタンドアローンBIソフトウェアを置き換えるのではなく、補完するものです。
「組み込みアナリティクスは、スタンドアローンのBIツールに取って代わるものではありません」と、Eckersonは言います。「組み込みアナリティクスは、このようなツールセットにより提供される機能をより簡単に利用できるようにします。ビジネスを推進する運用アプリケーションやプロセスにBI機能を組み込むことで、組み込みアナリティクスはBIをより運用しやすく、使いやすく、普及させることができます」
BIの組み込みにより得られる主なベネフィットのまとめ
既存の運用アプリケーションやプロセスにレポート作成およびアナリティクス機能を組み込むことで、数多くのベネフィットを得ることができます。
こちらは決して網羅的なものではありませんが、組み込みBIにより以下のことが可能になります。
- BIユーザー使用率の促進: 既存のソフトウェアアプリケーションにBI機能を組み込むことで、ユーザーが既に使い慣れているフレームワーク内のアナリティクス機能にアクセスして操作できるようになるため、使いやすさが向上して、使用への抵抗が軽減されます。コアアプリケーションのルックアンドフィールを複製することは、使用への障壁を減らすだけでなく、既存の運用アプリケーションにBIを組み込むことは、ユーザーベース向けに生成されたアナリティクスの関連性も保証します。
- BIの有効性の向上: 組み込みBIは、レポート作成およびアナリティクス機能を運用プロセスに直接リンクすることで、ユーザーがデータに基づくインサイトを得るための即時性や関連性を向上させることができるため、インサイトをアクションに直結させる支援をします。
- パーベイシブ (広範な) BIのサポート: 組み込みBIは、レポート作成およびアナリティクス機能のより広範な使用を可能にし、事実に基づく意思決定に根ざした企業文化の発展を促進します。これは、ユーザーが既に日常業務で使用しているアプリケーションやプロセスを介してBIインサイトが提供されるためです。そのため、既存のアプリケーションやプロセスにアナリティクス機能を組み込むことは、各ユーザーグループの要件を満たすために、スタンドアローンのBIプラットフォームを購入しなくても、様々なビジネス部門にBIを提供するための効果的な方法になります。
- 情報とアクションの架け橋を構築: 組み込みBIは、分析および運用機能を組み合わせることで、運用プロセスとビジネスデータの関係を理解するために必要なコンテキストをユーザーに提供し、社内および社外に発生するビジネス上の脅威や機会に対して迅速に対応できるようにします。
- プロセスの自動化を促進することで企業の有効性や効率性を向上: 運用アプリケーションに直接リンクされた組み込みBIは、(事前に決定されたベンチマークに基づいて) 機能固有のビジネスプロセスを大幅に短縮して改善または対処する自動アクションやアラートをトリガーすることができます。
- コアアプリケーションの販売性と価値の向上: ソフトウェアベンダーの場合は、自社のコアアプリケーションにアナリティクスモジュールを追加することで、製品の販売性や価値を大幅に向上させることができます。
基本的に、十分な時間やリソース、専門的なスキルがない限り、専用のサードパーティ製BIプラットフォームをコアアプリケーションに組み込むことが、エンタープライズ品質のレポート作成およびアナリティクス機能をユーザーに提供するために最も現実的な方法です。
しかし、基本的には、サードパーティ製のBIソリューションをコアアプリケーションに統合することは、次の理由からBI機能を社内で構築するよりも優先されます。
- 自社開発のBI機能にサポート、メンテナンス、アップグレードのすべてを提供する必要がある: 独自のBI機能を開発するには、膨大な時間と資金が必要であり、多くのタスクをこなさなくてはいけません。
- 開発にかかる時間や市場参入にかかる時間が要因であれば、構築に非常に時間がかかる: 恐らく、BI機能をコアアプリケーションに組み込むことで、何らかの競争優位性を実現できると判断したのでしょう。しかし、BIの自社開発には何ヶ月、場合によっては何年もかかることがあります。最終成果物は、当初特定された市場機会に対応するために必要な時間内に準備できるでしょうか?
- スタンドアローンのBIソリューションで利用できるエンタープライズグレードの機能の複製は、BIベンダーが継続的な製品開発のためにささげる時間やリソース、専門性を考慮するとほぼ不可能である: 目的に特化したBIソリューションを購入することで、サードパーティベンダーの知識や無限の製品投資を活用できると同時に、一夜にしてBIの専門家になる必要がなくなるため、コアアプリケーションの保守や管理に集中することができます。BI機能の構築には膨大なITリソースが必要ですが、これはビジネスの他のところに配置すべきです。実際、Aberdeenの調査では、ISVの44%が、組み込みBIの提供における最大の課題をリソース不足と考えていることが分かりました。
- 組み込みBIモジュール内でのコアアプリケーションのルックアンドフィール再現は困難である: 組み込みBIの成功の鍵は、シームレスで一貫したユーザーエクスペリエンスを確保することです。統合されたBIモジュールがコアアプリケーションのルックアンドフィールを複製できない場合、ユーザビリティやユーザー使用率を向上させることはできません。
Aberdeen グループのBI担当調査責任者であるMichael Lockは、最近のメディア発表において「BIの構築対購入: 組み込みアナリティクスの鍵となる戦略 (Build vs. Buy with BI: Key Strategies for Embedded Analytics)」というタイトルの新しいレポートを公表し、サードパーティ製BI機能を既存のアプリケーションに統合することで、ユーザー使用率や販売性、配信性が向上するという考えを支持した、と述べています。
「わたしたちの調査では、既製のBI機能を購入している企業は、自社で開発したBIを使用している企業よりも、CRMツールの使用率が高いことが明らかになっています」と、Lockは言います。「BIを導入済みのCRMツールの一部にすることで、ソリューションの魅力が高まり、最終的には使用率が促進されます。」
「調査回答者の大半は、BIベンダーにより提供およびサポートされる構築済みのBIパッケージをニーズに合わせて調整するハイブリッドアプローチを採用しています。このアプローチは、プラグイン可能なBIアーキテクチャーの重要性を示す統合上の課題を生み出す一方で、完全に自社で開発したソリューションではなくハイブリッドなアプローチを選択する企業は、使いやすいアナリティクスツールを主要な意思決定者に提供できるだけでなく、ITの専門知識と時間の負担を大幅に軽減できる立場にあります。」
このような理由から、Aberdeen グループが発表した別の調査レポート「組み込みBI: アナリティクスの使用率およびエンゲージメントを促進 (Embedded BI: Boosting Analytical Adoption and Engagement)」では、BI機能を自社のコアアプリケーションに統合しているISVのうち、その機能を社内で構築しているのは、わずか17%であることが明らかになっています。